大阪高等裁判所 昭和43年(う)449号 判決 1968年6月28日
主文
本件控訴を棄却する。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人服部恭敬作成の控訴趣意書に記載のとおりであるからこれを引用する。
論旨は原判決の法令適用の誤を主張し、原審が被告人につき昭和三九年三月一八日大阪地方裁判所で言渡された暴力行為等処罰に関する法律違反による懲役六月の前科を被告人の暴行、器物損壊行為に対する刑の加重要件としての常習認定の資料としながらさらに同一前科により再犯の加重をしているのは、明らかに二重処罰となり憲法三九条後段の規定に違反するから、刑法五六条、五七条はこのような場合に適用さるべきではなく、右の誤は判決に影響を及ぼすことが明らかであるというのである。
よつて判断するに、原判決が、所論前科を原判示常習認定の資料とし、さらに同前科と原判示の罪とが累犯の関係にあるとして再犯の加重をしていることは所論のとおりである。しかしながら、暴力行為等処罰に関する法律一条の三は、同条所定の行為の常習者であるという事由に基づいて、新たに犯した罪の法定刑を重くしたに過ぎないもので、常習認定の資料としての従前の行為については、その処罰の有無を問わないのであり、従つて右従前の行為について懲役刑に処せられている場合にも、これと累犯関係にあるかどうかとは全く無関係に常習性の判断がされるのであるから、たまたま右従前の行為である前科と新たに犯した罪とが累犯関係にある場合にこれに対して累犯の加重をすることは、いかなる意味においても重ねて刑罰を科することにはならず、憲法三九条に違反するものではない(なお常習性を構成要件とする犯罪についても刑法五六条の適用のあることについては、大審院判決、大正七年七月一五日、録二四巻九七五頁、同、昭和一四年七月一四日、集一八巻四一一頁参照)。原判決に法令適用の誤はなく論旨は理由がない。
よつて刑事訴訟法三九六条により本件控訴を棄却することとして主文のとおり判決する。